優しいさよなら
大好きだからさよなら


普通の恋人同士みたい。


仕事帰りに会社から離れた場所で待ち合わせ、食事をしたり、映画を観たり、週末は出かけたり、どちらかの部屋でダラダラと過ごしたり。


だけど一つだけ、わたしはわたしにルールを課した。


『高山くんの部屋にわたしの痕跡を残さないこと』


佐喜子さんが帰ってくるまでの期間限定恋人もどきだとしっかりと自分に言い聞かせる。


高山くんが渡そうとした合鍵も貰わなかった。
化粧品も、着替えも、歯ブラシさえ高山くんの部屋に置かなかった。



恋人のような時間を過ごすのに、好きだと言えない。



夜中に目が覚めて、隣で眠る高山くんを見て、何度も泣いた。こんなに近くにいるのに凄く遠い。



そしてわたしたちの関係はもうすぐ終わりを迎える。


「ただいまー!」

予定されていたその日、始業時間を若干過ぎて、オフィスの入口で大きな声で屈託なく挨拶をする人。

「おー、大場、おかえり!」

「大場さん、お帰りなさい」

あちらこちらから声がかかる。

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