優しいさよなら
「そんな気してたよ」
2人で会っていてもどこか上の空。
会う回数が減って、オレの部屋に来なくなって、オレに前みたいな笑顔を見せなくなっていたから。
泣きながらごめん、ごめんと繰り返す佐喜子を最後に抱き締めて許す。同じ部署だし、仕事には支障が出ないよう円満に別れようと言うと小さな声でありがとうと返ってきた。
自分でも驚くほどあっさりと、佐喜子からの別れ話を受け入れられた。
それは多分、オレにも何となく気になる存在ができていたから。
頭の回転が早く、気取らない同期。
名前のせいで、研修の時から何かと一緒にいることが多かった千紗。
佐喜子のように目を引く美人ではないけれど、いつも笑って人懐こい千紗は可愛かった。
嫌われてはなかったと思う。
けれど、千紗には何か、最後まで踏み込めない壁のようなものがあった。
それが何なのか、オレには分からなかった。
仲の良い同期から、もう一歩進んだ関係になりたいと思っていたのに。