優しいさよなら
大好きだからそばにいて
腕を掴まれたまま、電車に乗せられる。
そこそこ込み合う車内で身体は近く向き合っているのに、高山くんはわたしと目を合わせない。腕には痛いほど高山くんの指が食い込んでいる。
佐喜子さんにわたしとのことがバレたのだろうか。背中をヒヤリとしたものが駆け上がる。
わたしが降りる駅では降ろしてもらえなかった。高山くんの家に行くのだろう。
想像通り高山くんの家の最寄り駅で降ろされ、無言で引っ張られる。きっと暴れても力ではかなわないだろうし、外で言い争う内容ではないだろうから大人しく従った。
高山くんの家に着き、玄関に引き入れられる。背後で鍵をかける音がやけに静かな部屋に大きく響いた。
「入れよ」
言われて靴を脱ごうと思うのに身体が言うことをきかない。
ちっと小さな舌打ちが聞こえ、かがみ込んだ高山くんがわたしのパンプスを脱がし、また腕を掴んで部屋まで連れて行かれた。
見慣れた部屋。
いつもより少し荒れているかも。
もう来ないつもりだったのに。