優しいさよなら
「本気やったんですねー、住田課長。宴会の席でのリップサービスやと思ってました。テヘペロ」
秋の促販キャンペーンで営業部に助っ人で駆り出され、大した働きをした覚えもないのにいたくお気に召されたらしい。
「お前、明るいし空気よめるし酒豪だし酒豪だしな」
「大事なことだから2回言いましたって?酒豪は関係ないですー」
「お前出すのはウチとしてもいたいんだがな、あっちも産休と退職で人員不足らしい。ま、ウチは大場がロンドンから来週には戻るし」
胸の奥が針で刺されたように痛む。
しかも深く。
見たくないから、ちょうどいい。
冷静でいられないから、逃げる。
「今月末には辞令が出て来月から異動になる。引継ぎは黒沢にしとけ」
「了解でーす」
額に手を当て敬礼の形を取る。
向きを変えて仕事に戻ろうとする佐伯さんをふと思いついて呼び止めた。
「異動は黒沢くん以外にはちょっとの間内緒で」
「ああ、分かった」
自分の席について、ほうっと息を吐く。
パソコンの電源を入れ、メールチェックをしていると、オフィスの入口に高山くんの姿が見えた。