元社長令嬢は御曹司の家政婦
笑いを抑えようとしながらも、しばらく肩を震わせていたことは本当に腹だたしいけれど、その目元が予想外に優しげで不覚にもドキリとした。冷たい印象しかなかった切れ長の目は、笑うと全然印象が変わる。


「君はそれほど素晴らしい人間であるにも関わらず、頼れる友人も雇ってくれる企業もなく、数日後には家を失うわけだ」

「......っ!」


やっぱりただの冷血男だった!

優しげなんて思ったのが間違いだった。
目元はゆるませたままだったけど、口から出てくる言葉はやっぱり非情なもの。相変わらずの冷血男を、きっとにらむ。


「見る目がない人間ばかりで、日本の未来が心配だわ」


この私の価値を見過ごすなんて本当に目の曇った人間ばかりだけど、さすがに私もこうまで無下に扱われては落ち込む。だけど、この男の前で弱音なんて吐きたくない。

精一杯の虚勢を張ると、九条秋人は今度はこらえきれないといった様子で吹き出す。


「だから、さっきから何なのよ!?」

「ああ、すまない。
とても数日後に家を失う人間とは思えなくて。大抵の人間は、そんな状況なら嘘でも媚びるものだろう」


媚びる?この私が?
誰かが私に媚びることはあっても、私が誰かに媚びるなんてありえない。

本当に、本当に失礼な男。
でも、......こんなにたくさん笑う人だなんて思っても見なかった。すました態度と表情は腹の立つことこのうえないけど、笑った顔は悪くないかもしれない。
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