元社長令嬢は御曹司の家政婦
食べたいものは用意されているのが当たり前だったのに、今では自分で作らないと食事もできないなんて。

ありえない、ありえないわ。


自分の置かれた環境があまりにも変化してしまったことがいまだ受け入れられない。今日も絶望しながらリビングに向かうと、そこにはすでにスーツを着てネクタイまでしっかりとしめた秋人がトーストを食べていた。


「ああ、おはよう。
ずいぶんとごゆっくりなご出勤だな」


あまりにも遅いから自分で用意した、と言いながらも、秋人は表情を変えずに食事を続ける。


秋人の家政婦をやることが決まった日、元々秋人の住んでいたマンションに一緒に住むように言われて、さっそくその日から一緒に暮らしていた。

エントランスには常に警備員がいる高級マンション、眺めのいい高層階の部屋に、駅も近く都心にアクセスしやすい立地。私が住む物件としてはまあ合格としても、二人で暮らすだなんて、私の魅力に秋人が我を失って襲われないか心配だったけど、今のところは無事。


それにしても、同居を始めてから一週間たつのに、秋人が無精髭を生やしているところも、だらしない格好をしているところも一度も見たことがない。本当に人間なのかしら?そういう性分なんだ、と言っていたけれど......。
 
同居することになったのだから名前で呼びあおうと言われ、お互いそうしているけれど、人間味がなさすぎてまったく親近感がわかない。





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