元社長令嬢は御曹司の家政婦
秋人はこんがりと焼けたトーストをお皿に置いてから、心底呆れたように肩をすくめる。


「君に合わせていたら、俺は毎日遅刻だ。
どうしたらそこまで自己中心的な考え方ができるのか理解できないが......。
君ができないと言うのなら、理解する努力はしよう。
ただ仕事をこなせなかった分は、給料からひいておく。
君が俺に合わせないのは一向に構わないが、ただその分だけもらえるものが減るということだけ覚えておいてほしい」


な、なんて卑劣な男なの......!

私の服や美容化粧代に一体いくらかかると思ってるの?
お給料を減らされたら、私の美しさを保つお金も減ってしまうじゃない。

誰もが羨む完璧なスタイル容姿、神に選ばれたこの私が、そこらの辺の庶民みたいな服や化粧品を使えるわけでしょう!


「お給料を減らされたら、新作の服やお手入れにかかるお金も払えないじゃない!
あなたは私の美しさが分からないの!?」

「本当に、どうしたらそんな考え方ができるのか不思議だ。ここまで自分の立場が分かってない人間も珍しい。
まったく......これが恵まれた環境にあぐらをかいてきた人間の末路か。俺も気をつけよう」


激昂している私とは違って、至って冷静にそう告げた後、なぜか秋人はくすりと笑った。

......この男は分かってて言ってるんだわ。

私がどれだけ恵まれた暮らしや立場を手放したくない人間なのか。それから、私がどれだけエゴイスティックな人間なのかを。
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