元社長令嬢は御曹司の家政婦
私の言葉を聞いて、秋人はふむと頷いてから、顔を上げた。今度は何なの?


「もちろん、きちんと労働の対価は払うつもりだ。
無償で残業させたりするブラック企業のようなことはしない。

そうだな......、一月辺りこのぐらいでどうだ?」


私の様子を伺いながらも、秋人はすっと数本の指を立てた。

猫のお世話をすれば、それだけ支払うことってこと?


「そんなの割に合わないわよ」

「では、美妃が考えている金額よりも、桁が二つ増えたらどうだ?
心配しなくても、飼い主が現れたら引き渡すつもりだから、その間だけだ。臨時収入だと思えばいい」


桁が二つってことは......、え!?猫の世話するだけで、本当にそんなに払う気なの?

それだけ払うなら、ペットシッターを雇った方がずっといいでしょうに。だけど不思議と、秋人は他人を家に入れるのを嫌がるのよね。私のことは家に置いているくせに。
やっぱりよく分からないわ。


少しだけ口の端を上げた秋人の顔をマジマジと見てしまう。

ずっとは嫌だけど、少しの間我慢するだけでそれだけもらえるのなら......。ああ、何を買おうかしら。
諦めていた新作のバッグや靴、ポーチも欲しいわ。


「分かったわ。やらせて頂くわ」


臨時収入で何を買うか。
すでにそれだけで頭がいっぱいになってしまった私は、二つ返事でその取り引きに応じることにした。


私がどんなことを嫌がり、どうすれば動く人間なのか。
悔しくなるくらいに、秋人はよく分かっている。

感情論や良心といったものに訴えるよりも、お金をちらつかせた方が早いエゴイステックな人間であることを。


< 37 / 70 >

この作品をシェア

pagetop