元社長令嬢は御曹司の家政婦
毛玉を吐き出すためだったり単純に食べ過ぎたという理由だったり、吐くこと自体は猫にはわりとよくあることらしい、と秋人から聞いてはいた。

だけど、これは明らかに一回や二回の量じゃない。

ぐったりとしている猫の周りには、明らかに吐いたような痕跡がいくつもあって。明らかに異常だということがすぐに分かった。

もしかして、ずっと吐いてたの......?
私が寝ている間、ずっと......?

実際はどうか分からないけど、でも、もし、そうだったら。そう思っただけで背筋がぞっとした。   


元気な時は憎たらしくて、いっそずっと弱ってたままだった方が良かったのにとしょっちゅう思ってたのに、いざここまでぐったりとしている姿を目の当たりにすると、どうしようもなく動揺してしまった。


何かあればパパやママやお手伝いさんが何とかしてくれたし、自分で大きな問題を解決したこともない。

 
「秋人......、どうしよう。
猫が、死んじゃう......」


ぐったりとした猫の前でただオロオロすることしかできなくて、気づいたら私は秋人に電話していた。

リビングの時計は六時半をさしている。
まだ帰ってくるのは難しいだろうけど、それでも秋人を頼らずにはいられなかった。どうしようもなく心細くて、どうしようもなく不安だった。

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