元社長令嬢は御曹司の家政婦
「だが、結局今回のことで父からは失望されてしまった。今回のことは、全て確認を怠った俺の落ち度だ。
婚約早々こんなことになってしまって、美妃にも申し訳ないと思っている。君が望むなら、婚約を解消しても構わない。君ほどの美人なら他にいくらでも条件の良い男がいるだろう」


優しく私の頭を撫でて、少しだけ寂しそうにそう言った秋人にすぐに首を横にふる。


「秋人と結婚するわ」

「それは嬉しいが......、もしも平社員に落とされたら、今までのように良い暮らしはできない。
君は貧乏が嫌いだろう?」


私が即答で結婚すると言ったのがよほど意外だったのか、秋人は驚いたような表情を浮かべる。そんな秋人に、私はきっぱりと言い切った。


「貧乏は嫌いよ」

「それなら、どうして......」

「あなたを愛してるの。分かるでしょ?
秋人は、誰からも見捨てられて行き場のない私を救ってくれた。わがままな私を許して、愛してくれた」


貧乏は大嫌い。
思い通りにならないことは大嫌い。

だけど、社長令嬢という地位を失い誰からもそっぽを向かれてもまだプライドを捨てきれず、わがまま放題だった私を秋人は許してくれた。

両親にさえ見放された私のわがままを、秋人だけが許してくれた。


「次は、私が秋人を支える番よ」


だから、ごく自然にそう思った。

わがままな私を許して愛してくれた秋人を、私も、愛してるから。次期社長という地位を失ったとしても。
< 66 / 70 >

この作品をシェア

pagetop