副社長と秘密の溺愛オフィス
第四章

⑪彼女の秘密――side紘也

 女の世界というのは本当に熾烈だ。これまで噂で耳にしたことはあったものの、まさかここまでとは、想像もしていなかった。

 まだまだ俺も経験不足だな。

 とはいえ、こんな経験必要だったかといえば甚だ疑問なのだけれど。

 婚約の話を公にしてから、目に見える嫌がらせが増えた。はっきりとしてしまったほうが、甲斐の嫁の肩書ができて風当りが弱まると思っていた俺の読み違いか。女の世界はやっぱり難しい。

 とはいえ、こんな真っ黒い感情の渦の中にいるのが、彼女じゃなくて俺でよかったとは心底思うけれども。

「紘也さん、聞いていますか?」

「え? なんだ?」

 気がつけばうわの空だった俺の顔を明日香が覗き込んでいる。

「お疲れですか? めずらしくぼーっとされていましたが」

「いや、大丈夫だ。で、なんの話だった?」

 まだ心配そうにしている明日香に、話の先を促した。

「あの、この駅前の再開発にまつわる契約の件ですが、大乗(だいじょう)専務から試算した金額について高すぎるとの指摘があり――」

「またアイツか」

 専務の大乗は父の妹の子――俺のいとこだ。歳が近いこともあって小さなころから、ことあるごとに俺につっかかってきた――いわば面倒な奴だ。
< 105 / 212 >

この作品をシェア

pagetop