副社長と秘密の溺愛オフィス
そのときスマートフォンを確認しながら明日香が戻ってきた。しかし応答はしない。

お互いのプライベートの電話に関しては、入れ替わる前のものを所持している。電話に応答すれば声の違いでばれてしまうので、ふたりとももっぱらメールやSNSでのやりとりを主にしていた。


 一度切れた電話が、またもや鳴り始める。それが二・三度繰り返された。

「どうしよう……」

鳴り響く電話の音にどうしたものかと考えているようだ。今度は社内の内線が鳴る。

「はい。あ、えぇ。そうですか。わかりました、繋いでください」

 明日香も電話が気になったのか、俯けていた顔を上げた。

「君の弟さんから電話だ。とりあえず俺が出る――はい、もしもし」

「翼がっ? まさか何かあったんじゃ――」

 駆け寄ってきた明日香は心配そうに傍らに立つ。そんななかで俺は彼女の弟と話を始めた。

《姉ちゃん、会社にまでゴメン。でも携帯にかけてもでないから……。あの週刊誌に出てた話って本当なのか?》

 いきなり本題だ。週刊誌っていったいなんのことだろうか?

「週刊誌って……なんのこと?」

《とぼけるのかよ? 姉ちゃん嘘なんかつけないくせに。甲斐建設の副社長と結婚するのか?》

 電話を耳に挟んで、パソコンのキーボードを叩き、ネットの記事を検索する。するとすぐに、明日香の弟が言っている記事がヒットした。

 以前仕事の関係で何度か食事をした女優が、俺について色々と語っている。その中に、明日香の話も出ていた。俺と婚約したと。
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