副社長と秘密の溺愛オフィス
あの女――。

 手を出さなかったから、プライドを傷つけてしまったのだろうか。とはいえ、最初からそのつもりなどなかったのだから仕方ない。


「あ~その話ね」

 なんとかうまくその場を取り繕うとする。

《僕に相手の紹介もしないで、それに姉ちゃんは大地さんと結婚するもんだと思っていたから――》

「大地さん!? 結婚!?」

 男の名前と結婚という物騒な言葉を耳にして声を上げる。

《なんだよ、急にでかい声出すなよ。いいから一度こっちに戻ってきて話をしよう。大地さんだって心配してるから》

 そんな男の心配なんて余計なお世話だ。そうは思ったけれど、真相を突き止めたい。

 それに弟との話でこの退職願の真実がわかるかもしれない。

 そう思った俺はふたつ返事をした。

「わかった、とりあえず。今日仕事が終わったら、そっちに帰るから。待っていて」

《うん。とりあえず元気なことがわかってよかったよ。事故の後からずっと心配してたんだからな》

 彼女の弟――たしか翼と言ったか――は、安心したのか最後には落ち着いた様子で電話を切った。
< 109 / 212 >

この作品をシェア

pagetop