副社長と秘密の溺愛オフィス
 俺の心中はまったく穏やかではないけれどな!

 電話を切った俺を不安そうに見つめる明日香に言う。

「今ある仕事を全部こっちにもってこい。すぐに片付けて、君の自宅に向かうぞ」

「自宅って、でも――」

「いいから、早く!」

「はい」

 反論などさせず、考える時間も与えないことで、有無も言わさなかった。次々と仕事を与え、終わらせると車に押し込んで、弟が待つ彼女の自宅マンションへと向かった。

「本当に行くんですか?」

「あぁ。弟を心配させたままにしておくわけにはいなかいだろう?」

 最後の抵抗を見せた明日香だったが、しぶしぶと言った様子で玄関のカギを開けた。

「ただい――おじゃまします」

 あやうくいつものように声をかけそうになった彼女が慌てて言い直す。

「ただいまー! 翼どこー?」

 戸惑っている明日香をよそに、俺は明日香になりきって靴を脱いで部屋に声をかけた。

 こういうことは先手必勝。明日香が色々と気を回す前に真実を知りたい。

「ちょ、ちょっと――」

 止める明日香を振り切り、さっさと部屋の中に入る。

 慌てた様子の弟が駆け寄ってきた。

「姉ちゃん! 体は大丈夫なのか? 心配してたんだぞ」
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