副社長と秘密の溺愛オフィス

②事件は突然……やってきた

いくら退職を決意しかたらと言って、すぐに仕事を放りだせるわけもなく……。
 
わたしはいつも通り――いや残された時間がわずかだと思うと、いつも以上に――きちんと仕事をしていた。



 二十二時。繁華街を一台のリムジンが走る。

 そこには接待を終わらせた副社長と、同行していたわたしが乗っていた。

 副社長はリムジンの後部座席で溜息をつきながら、少々疲れた様子でネクタイを緩めた。

「はぁ……あの社長の話、長すぎると思わないか?」

 たしかに、今日はすごく時間がかかった……。

 副社長が疲れたというのも、理解できる。

「あの年代の方には多いですけれど、それも人柄の良さかと」

 一緒になって愚痴を漏らすわけにもいかず、わたしは隣で当たり障りのない返事をした。

 移動は多くをこの運転手付きのリムジンを使う。最初こそは緊張したものの三年目となると慣れたものだ。

 タブレット端末を取り出し、このスキマ時間に副社長に明日の予定を伝える。

「明日の午前中は定例会議が入っております。それまでに午前中の決済必要書類に目を通しておいてください。午後は――」

「ストーップ!」

「え、はい」

 いきなり止められて驚いた。何か不都合があったのだろうか?
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