副社長と秘密の溺愛オフィス
「あ。千佳子さん」

 軽く会釈すると千佳子さんは少し驚いたような顔を見せて、ふんわりと笑ったあと彼女も会釈をした。

 どうやら同じ店に入るようだ。入口の天井まである自動ドアがゆっくりと開き、先に彼女を通す。

「どうぞ」

「ありがとうございます。紘也さんもチョコレートですか?」

 小首をかしげて尋ねられた。無理もない。紘也さんがこんなところで買い物をするなんて、世の中の誰も想像していないだろう。おそらく本人も。

 ふと店内にある鏡に映った自分の姿を見る。チョコレートを前にはしゃぐ女たちのなかで紘也さんの姿はいくらイケメンとはいえ、異質だった。

「あ、明日香さんにプレゼントですか?」

「えぇ、まぁ。そんなところです」

 確かに食べるのはわたしなのだから、間違いではない。適当にごまかして店内にできている列に並ぶ。

「明日香さんチョコレートが好きなら、このお店のチョコをプレゼントすると喜びますよ。とってもおいしいんです。おすすめは――ってわたし、ひとりでしゃべってすみません」 

 はずかしそうに頬を染めるその姿は、彼女の育ちの良さを感じるものだった。控えめだけれども品よく周りに気を遣える千佳子さんを見ると、自分との育ちの違いを見せつけられるようだ。

「いいえ。初めてなので、色々教えてくださってうれしいです。千佳子さんもご自分のを?」

「え? あ、いえ。幹ちゃんがチョコレートが好きなので、差し入れに行こうと思って。彼が帰国している間に、わたしも何点かドレスをオーダーしようと思ってるんです」
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