副社長と秘密の溺愛オフィス
「ミキちゃん?」

 誰のことを言っているのかわからずに、首を傾げた。

「え? 紘也さん弟のお名前忘れたんですか?」

 千佳子さんはクスクス笑っている。

 そっか……幹也さんのことか。甲斐兄弟と彼女は幼馴染みなのだから、そういう呼び方をしていてもおかしくはない。

「いいですね。彼の腕は確かだから」

「はい。幹ちゃんが作ったドレスを身に着けると、背筋が伸びる気がします。どんなに緊張する場所でも、彼が一緒にいてくれるような気さえするんですよ」

「そうですか――」

 そこまで聞いて、はたと違和感を覚えた。確かに幹也さんのドレスは身に着ける人に自信を与える。そのくらい素晴らしいものだ。ドレスだけが主張するわけでなく本人を引き立てる。それも何十倍にも。

 けれど千佳子さんの言葉にはそれ以上の思いが込められているような気がしてならない。

 しかしその違和感が何なのか突き止める前に、次の話題に移ってしまった。

「明日香さんは幸せものですよね。あの天下の甲斐紘也にこうやって列に並ばせるなんて」

 たしかに彼なら面倒だからと言って、店を貸し切りにしてしまいかねない。

「まぁ、たまにはいいかなって思って」

「おふたりがお似合いで羨ましいです。運命の人に出会われたのですね。いいなぁ」

 千佳子さんは笑っているけれど、どこかその笑みに憂いが込められていて気になる。
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