副社長と秘密の溺愛オフィス
 それよりも何よりも、全身が痛くてほとんど動けそうになかった。

 どうやらわたしたちは、交通事故に遭ってしまったようだ。周りに散らばるガラス……目の前に迫る車体が事故の激しさを物語っていた。

「誰か……! 誰か助けてください」

 大きな声を出したつもりだったが、実際はか細いものだった。

 副社長は救助を待つ間も、「大丈夫だ。守ってやるから」と、わたしを安心させようとしてくれる。

 自分のほうが、ひどい怪我なのに。

 しかしわたしを抱きしめる腕の力が、弱くなっている。

 どんどん出血する傷の様子を見て、一刻も早く助けが来てくれるように祈る。

 そのとき母の形見のカメオのブローチが手元に転がっているのが見えた。わたしはそれを拾いぎゅっと握りしめ祈る。

 お願い――助けて!

 周りから聞こえる野次馬らしき人の声に混じり、遠くからサイレンの音が聞こえた。

 ようやくほっとしたわたしの緊張の糸が切れてしまい、そのまま意識を手放してしまった。
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