副社長と秘密の溺愛オフィス
 胸の痛み耐えるように唇を噛んだその時、凄い早さで紘也さんが専務の胸ぐらを掴んだ。

「ふざけるな。勝手なことばかり言ってると二度と俺の前に顔出せなくするぞ」

 震え上がるほどの、地をはうような低く冷たい声。彼の怒りが限界に達した証拠だ。

「紘也さん、ダメです」

 彼を止めようと咄嗟に腕に飛びつく。すると彼の腕からすぐに力が抜けた。すんでのところで感情をぶつけずに冷静になってくれてほっとする。

 専務は紘也さんの力が緩んだ隙に、慌てて手を振りほどき後ずさった。

「お前こそ、いい気になるな! いつまでも今の地位にい続けられると思うなよ。お前なんか引きずり降ろしてやるっ!」

 顔を真っ赤にして捨て台詞を吐き、部屋を出ていった。千佳子さんはわたしたちに頭を下げて、大乗専務の後を追うようにして部屋を出る。

「はぁ……なんだって言うんだ」

 紘也さんはそんなふたりを見て、イライラした様子で髪をくしゃくしゃとかき混ぜている。
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