副社長と秘密の溺愛オフィス
「本当にあのおふたり、結婚なさるんでしょうか?」

「あぁ。多分な。うちの会社にとってつかさ銀行とのパイプが強くなるのは、有益だから、幹部たちは両手を上げて喜ぶに違いない」

 会社にとってはいいこと。けれど千佳子さんを思う紘也さんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

 一度は婚約者候補にあがった、幼馴染の千佳子さん。その結婚相手があの大乗専務となると、幸せになれるとは到底思えない。紘也さんは、千佳子さんの幸せを願っているはずだ。

「あの、わたし。少し千佳子さんと話をしてきてもいいですか?」

 紘也さんはわたしの言葉に少し驚いた顔をしたけれど、すぐに「あぁ。頼む」と言って、自分のデスクに戻った。

 わたしは廊下に出ると、急いで階段に向かう。専務室はひとつ下の階だ。千佳子さんも専務と一緒に居るだろう。

 話をすることができるかな?

 専務と一緒だったら、彼女の本心を聞くことは難しい。

 急いで階段を降り、専務室に向かう。すると扉を開けて出てくる千佳子さんの姿がそこにあった。

「千佳子さん……」

 声をかけると、こちらを振り向いた。覇気のない作り笑いを向けわたしに会釈をする。

 前にチョコレートの専門店で会ったときのような、明るい彼女とは違う。あきらかに、今の状況に耐えているのがわたしにもわかった。

 先に歩き始めた千佳子さんについて行く。彼女はエレベーターに乗ると「どうぞ」と言ってわたしも乗るように促した。
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