副社長と秘密の溺愛オフィス
「もうしわけありません」

 本来ならばお客様よりも先に、自分がエレベーターの操作をするべきなのに、そんなことにも頭が回らなくなっていた。今はどうにかして千佳子さんの本当の気持ちを知りたいと思った。

 扉が閉まりふたりを乗せたエレベーターが一階を目指して動き出した。

「ごめんなさいね。お仕事中にお邪魔して」

 先に口を開いたのは千佳子さんだった。

「いえ、あの……わたしこそこんなところまで追いかけてきてしまって」

「いいんです。そうだ、紘也さんからもらったチョコレートおしかったですか?」

 あの日一緒に買ったチョコのことだ。

「はい。とっても」

「そう、よかった。紘也さん、女性の中に混じってひとりで並んでらっしゃたんですよ。あなたの為に――羨ましい。わたしにはそういう人がいないから」

 微笑んだその顔に、ある種の諦めのようなものを感じてしまい胸が痛む。

「千佳子さん……本当に大乗専務とご結婚なさるつもりなんですか?」

 彼女のつらそうな顔がいていられなくて、単刀直入に聞く。

 わたしの言葉に彼女は悲しそうな表情を浮かべた。

「そうなりますね。もともと父親の決めた相手と結婚するつもりでしたから」

「それでいいんですか? 千佳子さんは――」

「本当に好きな人と結婚できないなら……相手は誰だって同じだと思いませんか?」

 千佳子さんがいつか言ったセリフだ。
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