副社長と秘密の溺愛オフィス
「もう、紘也ったら何を言っているの? ほら、食事の時間に遅れるわ。行きましょう」

「あぁ。そうだな」

 副社長室からふたりの気配が消えた。その途端。

「……うくっ……うっ」

 我慢していた涙が溢れ出す。手でぬぐってもぬぐっても追いつかず、いつしかしゃがみこんで泣いていたわたしの足元にいくつものシミができる。

 悲しくても苦しくても、間違っているなら正さなければいけない。

 わかっているのに、わたしの心が悲鳴を上げる。

 彼が好きだと、離れたくないと――。

 それでも自分勝手なこの思いを封印して、正しい道に戻さなければ。

 優しい彼が動きだす前に、最後にわたしができる精一杯のことを彼にしてあげたい。

それがわたしができる彼への唯一の恩返しだと思うから。

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