副社長と秘密の溺愛オフィス
「明日香がいなくなって……この家に帰ってくるのが虚しくなった。どこを見ても、明日香の存在が感じられて――でも実際は俺ひとりで。圧倒的にひとりで住んでいた時間の方が長いのに、いつの間にかこの部屋は明日香と俺のふたりの部屋になっていたんだなって思った」

 わたしは黙ったまま彼の話を聞いた。彼は一呼吸すると話を続けた。

「正直、俺たちの身体が入れ替わったとき……明日香には悪いけどチャンスだと思った。これまで秘書として一線を引いていたけれど、これでずっと傍にいられるなって。卑怯だよな」

 わたしは彼の告白に驚いたけれど、自分も同じ気持ちだったと伝えた。

「わたしも、ふたりの生活が続くなら……もう元に戻らなくてもいいかなって……思っていました」

「そうか……じゃあ、お互い様ってことか」

 わたしの告白に、彼はクスクスと笑った。

「俺たちの身体が入れ替わっていたときも、見かけは男なのに、俺にとってはずっと明日香は明日香のままで、あぶなっかしいけど、時に強情で……でも一生懸命で。ますます君が好きになっていった。俺のせいで危ない目に遭わせたし、しなくてもいい苦労もたくさんさせたことは、本当に申し訳ないと思っているし、守りきれなかったことも悪かったと思っている」
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