副社長と秘密の溺愛オフィス
「あれは……明日香が思っているような意味じゃない。無理矢理婚約って形をとっただろう? それを反省していたんだ。俺としては、明日香を隣における最高で最良の方法だったんだけど、明日香にとっては〝しかたなく〟だったのかもしれないってな。退職願も引出しに入ってたし」

「知ってたんですかっ!?」

 慌てて身体を離して紘也さんを見ると、「あぁ」と不満そうにうなずいた。

 まさかあの退職願が、こんな誤解を生むなんて……。

「入れ替わる前に、もう俺から逃げ出そうとしてたんだろう? それはどうしてだ?」

 紘也さんが理由を聞きたがるのも無理はない。言いづらいけれどもうこれ以上誤解を生むのは嫌だ。

「あれは……」

「あれは?」

 決心したものの、なかなか伝えることができないわたしに、紘也さんは先を促した。

「あなたが……紘也さんが好きだから、もうそばにいられないって……これ以上好きになるのが怖かったから」

 一瞬わたしを抱きしめていた紘也さんの体がビクッとはねた。そしてその後すぐわたしの耳元でささやく。

「もう一回、言って」

 俯き加減のわたしの顔を覗き込みながら、彼が言った。

 その艶めいた目に、わたしが映っている。
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