副社長と秘密の溺愛オフィス
「君、こんな状況のときに他人の心配かよ。まぁ、乾らしいな」

 確かに今は、自分たちのことをどうにかしなくてはならない。

 でも気になるのだから仕方ない。

「田中さんも大事に至っていない。ただ左腕を骨折してしまったらしい。しばらく仕事は無理だな」

「そうですか……でも、命に別状がなくてよかったです」

「そうだな。それにおそらく体と魂が入れ替わるなんて事態にもなっていないはずだ」

「そうでしょうね」

 それ以上なんと答えていいのかわからず、黙り込んでしまう。

「どうにかして、元に戻らないとな。とりあえずスマホで検索してみたんだけど……碌な情報がない」

 それはそうだ。いまだかつて現実に心と体が入れ替わった人物に出会ったことがない。

「お医者様に相談しますか?」

「バカ言うな。頭がおかしくなったと思われて、入院期間が延びるだけだ。仕事を放っておくわけにはいかない」

 副社長が何よりも仕事を大切にしていることは、秘書であるわたしはよく知っている。

 彼中心に動いてるプロジェクトも多くあるし。皆からの信頼も厚いことから、目上の人物と若い社員とのいい潤滑油にも自ら進んでなっていた。
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