副社長と秘密の溺愛オフィス
第二章

④自分とファーストキス

「お、おじゃまします」

「どうぞ」

 本来の主である副社長の姿をしているわたしは、キョロキョロしながら部屋の中を見渡した。

 四年前に完成した都心の一等地にある高級タワーマンション、別棟は商業施設が入り休日となるとたくさんの人で賑わっていた。

 完成時にはメディアでも大々的に大きく取り扱われ、今では観光スポットのひとつになっている。

 もちろん甲斐建設が作り上げたものだ。

 そしてこの仕事を成功させたことにより、彼が副社長に就任することになった。

 そこの住居棟の最上階である四十二階が副社長の部屋だ。出入り口も複数あり、プライバシーも守られることから、芸能人や著名人も数多く入居している。

 彼の秘書になって三年、マンションの受付までならば何度も訪れたことがあったが、実際に中に入ったのは初めてだ。

 その豪華さにあっけにとられるまま、リビングに足を踏み入れて言葉を失った。

 見渡すほど広いリビングは、わたしが弟と住んでいるマンションの部屋はまるまる入ってしまいそうだ。

 一番に目に入ってくるのは大きな座り心地のよさそうなグレーのソファで、たしかイタリアのブランドのものだったと思う。

 きっとわたしならあそこで寝ても、まったく狭く感じないだろうな……。
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