副社長と秘密の溺愛オフィス
 そう思って、今の副社長の大きな体では到底無理だと思いなおす。

「いつまでそこに立ってるつもりだ。こっちに来い」

 そう言いながら副社長は、ジャケットを脱ぎソファの背もたれにかける。

 そのままキッチンに向かい、冷蔵庫を覗いている。

「乾、水でいいか?」

「はい」

 わたしは副社長が脱いだジャケットを手に取った。昨日の事故でところどころ汚れている。どこかにひっかけたみたいで、一か所やぶけていた。

 お気に入りだったのになぁ。しかたない形あるものはいつかは……なんて言うしね。

 このスーツは始めて副社長の秘書として出張に同行したときに買った、自分にとっては思い出のものだ。

 少し切なくなりながら、先ほどキョロキョロしたときに見つけたハンガーにジャケットをかけた。

 ソファに戻ると、副社長はすでに座ってミネラルウォーターをペットボトルからそのまま飲んでいた。

 目で座るようにうながされて従う。 

「失礼します」

「どうぞ。ほら」

 座ったわたしは、手渡されたペットボトルをうけとった。 
< 31 / 212 >

この作品をシェア

pagetop