副社長と秘密の溺愛オフィス
そして我慢も限界を迎えた。

 わたしは覚悟を決めてトイレのふたをあけ、ベルトのバックルに手をかけた。

 そして目をつむって便座に座る。

 しかしそこからは……思い出したくもない惨事だ。

「え、うそ……どうして! いやーーー!」

 目をつむったら平気っていったじゃない!

 しかし実際のところは、ただ座る だけでは無理で……。

「おい、どうした! 大丈夫か!?」

扉の向こうから、副社長が心配して声をかけている。

 しかしショックを受けたわたしは立ち直るまで、しばらくその場で放心状態になった。〝無〟の状態になったわたしにふと疑問が浮かぶ。

 もしかして、副社長も……?

 入れ替わってから時間が経過している。

 ふと副社長ががぶがぶとミネラルウォーターを飲んでいた姿が頭をよぎり、わたしはトイレから飛び出した。

「お、出てきた」

「あの、副社長……もしかして、もしかして――」

 混乱してうまく言葉にできずに、副社長とトイレを交互に指さす。

 その意味を察した彼は「あ……」と小さな声を出した。それだけで理解するのには十分だった。


「い、いやぁぁあああああ!」

 わたしはさっきトイレで叫んだよりも大きな声を上げた。それは閑静な高級マンションの強固な防音機能をものともせず、マンション全体に広がった。


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