副社長と秘密の溺愛オフィス



「おい、そろそろ泣き止めって」

 いつまでもメソメソと泣いているわたしに、彼は少々あきれ顔だ。

 そう言われても、このショックはちょっとやそっとで癒されない。

 自分の好きな人に、裸を見られるなんて……。しかもロマンチックな場面ならまだしも(いやそれでも十分恥ずかしいが)、まさかトイレだなんて。

 またジワリと涙が滲みそうになる。

 そんなわたしの目の前で副社長がまたミネラルウォーターを口にしている。

 わたしは慌てて立ち上がり、彼の手からペットボトルを奪い取った。

「こ、これ以上水分取らないでくださいっ!」

「何言ってるんだ? 殺す気か?」

 わたしの手から、ペットボトルを奪い返した彼は、それを一気に煽った。

「ちょっとくらい努力してください、わたしだって我慢してるんだから――っんっ」

 うそ……でしょ?

 一瞬の出来事だった。気が付くとソファの背もたれに押しつけられ唇が重なっていた。そして彼の唇からミネラルウォーターが流れ込んでくる。

 驚いて目を見開いたまま、コクンとそれを飲み下した。

「文句ばっか言ってると、毎回こうやって飲み食いさせるぞ」

 もう一度ペットボトルの水を口に含んだ彼を見て、わたしは咄嗟に自分の唇をふさいで身を守る。
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