副社長と秘密の溺愛オフィス
 そんなわたしを見下ろしていた彼は、諦めたように隣にどさりと腰を下ろした。

「自分にキスしてるみたいで気持ち悪い」

 ぼそっと呟いた副社長だったが、わたしだって同じ立場だ。

 しかも……これがファーストキスだなんて。これから先、ファーストキスの相手を聞かれると「自分」と答えることになってしまう。

 そんなくだらないことを考えてしまうほど、わたしは混乱を極めていた。

 ウジウジイジイジしているわたしを見て、副社長は大きなため息をついた。

「この状況に、頭がついていってないことは分かる。俺だって同じ立場なんだからな」

 そうだった……。副社長だってわたしと入れ替わっているのだから、同じように悩んでいるはずだ。

 やっと現実に向き合い始めたわたしは、顔をあげて話をする副社長を見つめる。

「とりあえず、いつ元に戻れるのかわからないのが現状だ。だから今は、その間どうやって過ごすのかを考える方が、現実的じゃないか?」

 副社長の言う通りだ。この状況を受け入れるしかない今、わたしは副社長として当分の間生きていかなくてはならない。

 途端に不安になった。

「わたしに……できるでしょうか?」

「やるしかないだろ。逃げ道はない」

 きっぱりと言い切られた。変に期待を持たせないのが、実に彼らしい。

「でも、君はラッキーだったな」

 いきなり男性の身体になったわたしが、ラッキー?

 不安に押しつぶされそうになっているのに?

 この世の中のアンラッキーベストテンには入るくらいの不幸なのに?

 理解できない……。

「入れ替わったのが俺でよかったなってことだ。イケメンで長身、お金持ち。皆の憧れの人間だ」

 まさにその通りだ。
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