副社長と秘密の溺愛オフィス
 わたしはシャツの腕をめくり、野菜室の隅にあった玉ねぎとニンニクのみじん切りから始めた。

「この包丁すごく使いやすい。どこのだろう」

 トントンと小気味いい音を響かせながら、小さく刻んでいく。集中している間は、面倒なことを忘れていられる。

 ――そう忘れていた。とても大事なことを。

「ん? 副社長、シャワーって言ってた?」

 料理することに夢中で、とても大切なことを聞き逃してしまった。わたしは急いでバスルームに向かい、鍵のかかっていない扉を開けた。

 そこでわたしが目にしたものは――副社長が鏡の前で、わたしの胸をすくいあげるようにして触っている姿だった。

「な、なにやってるんですかっ!」

「ん? 君結構胸あるなだな⁉」

 なんだかうれしそうに、わたしを振り向いた。その顔を見た瞬間、わたしは後先考えず、手を振り上げていた。

――ばちーん!

「いってー!」

 バスルームに、副社長の悲痛な叫び声が響いた。
< 42 / 212 >

この作品をシェア

pagetop