副社長と秘密の溺愛オフィス
「おい、いつまでふてくされてるんだよ」

 ダイニングテーブルに向かい合ってわたしと副社長は座っている。目の前にはわたしが怒りのままに作り上げた、トマトとアンチョビのパスタと冷蔵庫にあった高そうなチーズ、副社長が冷蔵庫から持ってきたよく冷えた白ワインが置かれていた。

「ほら、機嫌直せって」

 副社長がわたしのほうに、ワインの瓶を差し出して、グラスを持ち上げるようにと促した。わたしは唇を尖らせたまま、それに従う。ワインに罪はないし、飲まずにはいられない心境だ。

 差し出したバカラのグラスに副社長がワインを注いでくれる。普段のわたしなら上司にお酌をさせるなんてことはない。けれど今はそれくらい許されるはずだ。

「ほら、これからの俺たちに乾杯」

 グラスを差し出されて、しぶしぶカチンと乾杯した。

 怒りながら飲んだワインだったが、フルーティで飲みやすい。きっと普段あまりお酒を飲まないわたしが飲みやすいものを副社長が選んでくれたのだろう。

「そんなに怒るなって、仕方ないだろ。風呂に入らないわけにはいかないんだから」

 たしかにそうなんだけど……。

「あんなマジマジと見る必要ないですよね?」

 わたしの抗議を、社長は鼻で笑った。

「いいだろ、別に処女でもあるまいし」

「……っう」

 言葉に詰まったわたしを見て、副社長は心底驚いたように「嘘だろ」とつぶやいた。

 その言葉にイラっとしたわたしは、副社長の前においてあったパスタをこちらに引き寄せようとした。
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