副社長と秘密の溺愛オフィス
すると副社長は、慌ててそれを止める。

「待った! 悪かった、俺が全部悪い!」

 必死にあやまられて、わたしは許したわけではないけれど、とりあえずパスタを没収するのはやめた。食べ物に罪があるわけじゃないから。

 とはいえ、上司にプライベート――しかも最も知られたくないことを知られてしまったわたしは、恥ずかしさと気まずさで唇を噛んだ。

 そんなわたしを気遣って、副社長はワインのボトルを差し出した。グラスに三分の一程残っていたワインをぐいっと飲み干し、カラになったグラスを差し出した。

「いい飲みっぷりだな」

「ありがとうございます」

 よく考えてみれば、副社長が何か悪いことをしたわけではない。この歳にもなって男性経験がないことに単純に驚いただけだ。

 それなのに、恥ずかしさから責めるような態度をとってしまった。

「すみません、副社長にやつあたりするような態度をとってしまって、そりゃびっくりしますよね、まだ経験がないだなんて」

 こうなったら開き直るしかない。今の彼はわたしなのだから、こういう情報も共有しておいたほうがいい。

 いいわけ……ではないけれどこうなった経緯を説明しておく。

「わたしに、両親がいなことはご存知ですよね?」

「あぁ飛行機の事故でふたりとも亡くされたという話は聞いている。残念なことだったな」

 わたしをいたわるような言葉に、副社長の持つ優しさが感じられる。
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