副社長と秘密の溺愛オフィス
「学生のときは勉強ばっかりしていて、卒業の年に両親が突然亡くなってしまって……。頼れる親戚もなく、弟のことだけ考えて必死に仕事をしていたら、この歳になってしまいました」

 ワインの力を借りて、できるだけ暗くならないように話をした。

「彼氏は?」

 わたしは黙ったまま首を左右に振った。社会人になってからはずっと目の前にいる副社長に片想いしているなんてことは口をさけても言えない。

「そっか。まぁ、人それぞれタイミングってもんがあるからな。まぁ、この際だから最高の思い出に出来る相手がいんじゃない? あ、ちなみに俺なんかどう? 初っ端からイカせる自信あるけど――うぐっ、おひ、なにひゅるんだ」

 わたしはフォークにさした高級チーズを、副社長の口に思いっきり押し付け、それ以上彼が余計なことを言えないようにした。

 冗談でもそういうこと言わないで欲しい。わたしなんて対象外のくせに。

 もぐもぐと口を動かし、わたしにつっこまれた特大チーズを咀嚼している副社長を尻目に、わたしはさっさと食べ終わった食器の片付けを始めた。

 まったく、わたしに対してデリカシーがなさすぎじゃない?

 それだけ、女とみられてないってこと?

 自分で出した答えにガッカリしながら、スポンジを手にとって泡立てた。

 副社長もわたしが不機嫌になったことに気がつき、キッチンまで追いかけてきた。

「おい、何怒ってるんだ――」
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