副社長と秘密の溺愛オフィス
「まぁ、とにかく彼のすべてを好きになって……頼み込んで付き合ってもらうことにしたんです」

 ん? どうしてそうなった?

 しかしこんなデマカセお母様に通用するだろうか? ハラハラしながらお母様の様子を窺う。

「紘也、彼女の言っていることは本当なの?」

 急に真剣な顔で尋ねられて、どう答えたらいいのかわからず思わず目が泳ぐ。

「あ、えーっと。痛いっ」

 テーブルの下で、副社長に足を蹴られた。彼の顔を見ると鋭い目で「話を合わせろ」と言っている。

「あの、はい。実はそういうことになっていまして」

 おそるおそるお母様の顔を見ると、最初難しい顔をしていたももののその表情が次第に柔らかくなり、最後には満面の笑みになった。

「あぁ! なんてことなの! 神様っ!」

 そう叫ぶと副社長の手をぎゅっと握って、目を輝かせた。

「乾さん! 本当にありがとう。こんなバカな息子と真剣につき合ってくれるなんてっ!」

 え? どういうことなの? まさか歓迎されてる?

 副社長くらいになると、つき合う相手だって最上級の女性を求めるはずだ。母親が出す条件なら厳しいものに違いない。

「あの、いいんですか? わたし――じゃない、俺たちがつき合っても」

 わたしの質問に、お母様は副社長の手を握りしめたまま答えた。
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