副社長と秘密の溺愛オフィス
 なに、お母様の提案に悪ノリしちゃってるの!

「そうよね。女の子だもの、どっちも着たいわよね。わかった。わたしに任せて。それと式場は甲斐家とお付き合いのあるところに頼みますから、いいわよね?」

「はい。楽しみにしています」

 にっこりと笑う副社長の顔が(実際は自分の顔だけど)憎らしい。

 反論しようと、口を開きかけると副社長がこちらを見てウィンクした。

 お母様はもりあがっているし、肝心の味方であるはずの副社長もなぜだかお母様の話にノリノリで答えている。

 四面楚歌になったわたしは、盛り上がるふたりの話をただ呆然として聞いているしかなかった。

 散々アレヤコレヤと話したあと、お母様が腕時計を見て「あらいやだ!」と声を上げた。

「もうこんな時間。今からお茶の先生のところに行くの、忘れてたわ!」

「タクシー呼びます」

 そう言って副社長は、席を立ちキッチンのカウンターにおいてあったスマートフォンでタクシーを呼ぶ。

 その間、お母様がこっそり顔を寄せて小声で話をする。

「あの子お茶淹れるのへたくそ過ぎない? 秘書として完璧だと思ってたけど、案外抜けてるところがあるのね。
まぁそこも可愛らしいわ。本当にいい子を見つけたわね」

 わたしはテーブルの上に置いてある、お母様が一度だけ口をつけた紅茶を見た。きっと副社長は紅茶なんてまともに淹れたことがないんだろうから仕方ないんだろうけど。

「たぶん緊張したのだと思います。次回はちゃんと淹れてくれると思いますよ」

 わたしの代わりをするというなら、お茶の淹れ方から特訓しないとダメだな。
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