副社長と秘密の溺愛オフィス
 ため息をついたと同時に、秘書課の課長が部屋に入ってくる。五分の遅刻だ。重役付の秘書がこんなことでは示しがつかない。一言――いえる立場ではないので、後で明日香から注意させよう。

 そうしてミーティングが始まる。今週いっぱいの重役のスケジュールの調整だ。みな聞きもらさないように真剣に話を聞いている。感心だ。

「おい、乾。お前メモも取らずに何をしている。病み上がりだからって、出社している以上はしっかり働いてもらうぞ」 

 秘書課課長は副社長の俺に反発する専務派だ。だから以前から明日香に対しての態度も少し気になっていたが、こんな細かいところまでグチグチ言うのか……。

 それまで黙って聞いていたが、我慢ならずにマスクをとって応戦する。

「お言葉ですが、課長がおっしゃったことはすべて頭の中に入っています。それよりも水曜日の社長の予定は先週中に先方の都合で来週に変更になって、代わりに監査法人との面談の予定になっているはずです。副社長は同席する予定になっておりますが、専務は違ったのでしょうか? まぁ数字に弱いですからね、専務は――おっと失礼いたしました」

 イライラまかせに思わず思っていたことを口にしてしまった。一瞬場が凍り付いてまずいと思う。しかし小さな笑いクスクスと周囲から起こり、課長もバツが悪くなったのか、ゴホンと咳払いをして「静かに」とだけ言って話を続けた。最後までこちらをじっと睨みつけながら。
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