副社長と秘密の溺愛オフィス
 いくらわたしが思いをよせ、懸命に尽くしたとしても、到底太刀打ちできるような相手ではない。

 そのことは最初から分かっていたはずだ。

 自分のがまわりからなんと言われていたのか――ことに悪いものに関してはすぐに耳に入ってくる。

 給湯室で後輩の秘書たちが噂をしていた。

「副社長が乾さんを秘書にしたのって、彼女を女として見てないからでしょう。だって、副社長は仕事とプライベートはきっちり分けるタイプらしいから」

「そうなの? だったら、わたし、個人秘書にならなくてよかった~。まだチャンスがあるってわけよね?」

「あはは……可能性だけの話しならゼロじゃないかもね。女に見られないなんて最悪」

 そっと悲しみと悔しさをこらえて、その場を離れた。

 もちろん自分の思いが届くだなんて思ってもいない。けれど事実を突きつけられるのはやはり堪えた。

 それからは憧れの人にせめて仕事で認めてもらえることを目標に頑張ってきた。

 そのおかげで随分信頼され、様々な仕事に関わらせてもらった。

 しかし近くにいれば忘れられるものも、忘れられないわけで……。

 それどころか思いはどんどん大きくなっていく。
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