あなたの手
 驚いて手を引っ込めようとすると、さらに力を込められた。

「出ましょうか・・・・・・」
「出る?」
「はい」
 
 もう遅い時間なので一緒に出ようと鞄を手にした。
 外に出ると風が吹いていて肌寒さを感じて、身震いをすると後ろからコートをかけてくれた。

「ありがとうございます・・・・・・」
「忘れちゃってます」

 よく見ると自分のコートだった。
 今日は一体何なのだろうと考えて落ち込む。
 彼に家の最寄駅を訊かれたので言うと、途中まで同じ方向だとのこと。
 名前も知らない人と一緒にいるのに、不思議とリラックスしている。
 電車を降りて、乗り換えの電車へ向かった。

「気をつけてね」
「はい。今日はありがとうございました」
「こちらこそ」

 頭を優しく撫でられて、頬が熱くなった。
 電車が来たことを教えられ、乗った後に頭を下げた。
 家に着くといつもより長めの風呂に入り、全身をもみほぐした。

 
「・・・・・・今日降らないんじゃないの?」

 朝起きたとき、部屋が暗いのでまだ夜中だと思ったものの、時計を見ると六時を過ぎていた。
 雨の日はどうしても気が沈む。
 家にいるときも仕事をしているときも気分が晴れなかった。
 仕事が終わった後も雨は降り続けている。
 さっさと帰ろうと思っていると、姉からおつかいを頼まれていたことを思い出した。
 期間限定の人気商品を前から欲しがっている。
 たしか一週間程度しかやっていなくて、明日までと聞いていた。
 明日になると今日より雨が激しくなるらしく、買いに行くなら今日が良い。
 それに今日はマッサージ店の予約日なので、先にそっちへ行く。
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