あなたの手
「いらっしゃいませ」
「あの、予約している植仲ですが・・・・・・」
「植仲様、お待ちしておりました」

 奥から出てきた男性スタッフを見た瞬間、思わず声を上げそうになった。

「あなた・・・・・・」
「才賀要(さいがかなめ)です」

 にこやかに接している彼ーー十日前にバーで声をかけてきた男性だ。
 紗保が社会人になってこの店でときどきマッサージをしてもらっていて、彼にマッサージされるのは初めてだ。

「いつもはこれを使用しているんです」

 ポケットから眼鏡を取り出してかけた。バーにいたときは外していたので誰だかわからなかった。

「こちらへどうぞ」
「は、はい・・・・・・」

 マッサージは気持ち良く、少し複雑な気分だった。
 マッサージが終わった後、レジで支払いを済ませて外に出ると、才賀が追いかけてきた。

「才賀さん・・・・・・」
「忘れ物です」

 傘置き場に紗保の傘があることに気づき、届けてくれた。

「ありがとうございます」
「いえ」

 傘を受け取り、才賀を見上げた。

「近々会えるって、こういうことだったんですね」
「もうそろそろかなって思っていたら、偶然あのバーにいたから驚きました。それと・・・・・・」

 レジにいた女性スタッフが割引券を渡していなかったので、それも渡してくれた。

「また来ます」
「ぜひお待ちしております」

 店を後にして手の中にあるつり銭をコートのポケットに入れようとしたとき、割引券が落ちた。
 割引券に見覚えのないメモが挟まっていた。
 そのメモを開くと、また会いたいということと才賀の休みの日が書かれていた。
 それを読んで才賀のことが気になって、彼のことしか考えられなくなった。
 家に帰ってすぐに姉に頼まれていた和菓子を渡して、そのまま自分の部屋のベッドに倒れこんだ。
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