あなたの手
「偶然ですね! 最近なかなかお会いできなくて、どうしているのか考えていたんですよ!」
「お久しぶりです」
「あっ!」

 女性は何か思い出したみたいで、鞄から封筒を取り出した。

「才賀さん、このアーティストお好きですよね? チケットを手に入れたので一緒に行きましょうよ!」
「せっかくですが、その日は予定があるんです」

 才賀が断ると彼女は唇を尖らせて、言葉を続ける。

「別の日に変更したらよろしいじゃないですか? あなたもそう思いません?」 

 突然話をふられて返事に困っていると、才賀に手を引っ張られた。

「その日はどうしても外せないんです」
「でも・・・・・・」
「あんまりしつこくされると迷惑です」

 不機嫌になった才賀を見て、彼女はすぐに謝罪する。

「ごめんなさい・・・・・・でも、才賀のことが・・・・・・」
「もう心に決めた人がいます。失礼します」
 
 才賀に手を引かれながら後ろを振り返ると、彼女は俯いて一歩も動いていなかった。

「あの、さっきの方は・・・・・・・」

 険しい横顔を見ると、とてもそれ以上何も言えなかった。

「職場の先輩の知人です」
「そうだったんですね・・・・・・」
 
 しばらく歩き続けると、喫茶店が見えて入ろうと誘われた。
 席に座って待っているよう言われたので心に決めた人がいます、注文して持ってきてもらうことを才賀にお願いした。

「お待たせ」
「ありがとうございます」

 紗保はウィンナーコーヒーを選び、才賀はブレンドコーヒーを選んだ。
 少しでも心を落ち着かせようと、ウィンナーコーヒーに手を伸ばした。
 一口飲むとその美味しさに驚き、目を見開いた。
 ここの店は行列ができる人気店で、前から気になっていた。
 しばらく並んでいたものの、待ち時間の長さに痺れを切らして途中で帰ってしまった。

「植仲さん、巻き込んでしまって・・・・・・」
「才賀さん?」
 
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