クールアンドドライ

　ムカつくって言われましても・・・
暫しの沈黙の後、彼はメガネを私に返してきた、「鞄にしまってこい。」そう言いながら。

　無言の威圧感に耐えられず、言われた通りにする。

　リビングのソファーの上に置かれていた鞄から、メガネケースを取り出ししまった。
ああ、メガネを外すと不安になる。
　おずおずとキッチンに向かい、「何か手伝う事ありますか？」普段通りを心掛けた。
「いや、いい。座ってろ。」そう言われて、またリビングに戻った。

　手持ち無沙汰で、何となくつけたテレビを眺めていると「出来たぞ」と声をかけられた。

　メガネを外したせいか、何時もより素直に声が出た。
「悔しいけど、美味しいです。」
そう言った私に、課長は柔らかく笑ってくれた。わりと本気で見惚れそうになった。

　ダイニングテーブルに向かい合って座った。
出されたのは、豚の生姜焼き。
大好きなメニューだ。
しかも、味噌汁とキャベツの千切りまで付いていた。素晴らしい！

　さっきまで課長が不機嫌だったから、気まずかったのに、すっかりテンションが上がってしまった。
豚肉って素晴らしい!!

　「課長って、自炊してるんですか？」
何となく、さっき聞けなかった質問をまたした。
「たまに、コンビニばっかだと飽きるだろ。」
「ですよね～、私も週末とかは自分で作ります。あまりレパートリーは無いんですけど。」