クールアンドドライ
 「悪かった。すまない」
起き上がって、背を向けた課長が、第一声で、謝ってきた。

 そんな風に、謝罪されたら、文句も言えないじゃないか。
何だか、何時もの課長らしくない。
何時もはもっと偉そうなのに。

 私も起き上がり、「な、なん・・」と、問いかけた声は、「はー、お前、もっと警戒心持てよ。」という課長の文句に飲み込まれた。

 「持ってないわけじゃ無いです。」
私の精いっぱいの反論も、また、課長の溜め息にかき消された。
 何だか、さっきから失礼じゃないか?
謝罪するなら、顔を見てしてくれたっていいじゃない。
溜め息ばっかりついてるし。
 ムクムクと怒りが湧いて来ていた私に、「戸締まりしとけよ。」と言い、結局私の方を見ることなく、課長は玄関へ向かった。

 バタンとドアが閉まる音がして、我に返った。
いろいろ考えていたら、課長は、もう居なかった。

 ちょっとーっ。やり逃げ?

 あんなキスしといて、した理由も言わずに逃げるって。

 酷い!
 
 警戒心を持てっていう忠告にしては、がっつり舌入ってきてたよ。

 ファーストキスだったら、泣いて抗議してたよ。

 あああああ、もう、何だってんだ!!
ワケが解らない!
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