クールアンドドライ
 私のアパートまで、2人で歩く。
徒歩5分程の道のりだが、ずっと沈黙が続いている。
行きは、定食屋さんについて、話していたから、すぐに着いた気がする。
 流石に、ちょっと気まずい。
何故だろう?
課長は不機嫌な感じじゃないのに。
なんで、私は、こうも居たたまれなさを感じているんだ?
やっぱり、意識しちゃってる?
課長のこと?

 だからといって、今更訊けない。
なんの為のキスだったの?なんて。
訊けるわけがない。

 グルグルと考えていたら、もうアパートの前に着いた。
「課長、あの、ありがとうございました。ーひゃっ」
言いながら下げた頭を上げようとしたら、腕を引かれた。

 抱きしめられているらしい。
彼の両腕が、締め付けるかのように絡んでくる。
少し苦しくて、ちょっとドキドキして、でもそれ以上に、癒やされている。
 彼は、私の首筋に顔を埋めると、「早く気付けよ。」そう言ってくる。
 その声が、切ない響きをしていて、何に気付けばいいのか訊けなかった。

 しばらく固まっていると、彼は、唐突に私を突き放して、「じゃあな、お休み」と言って立ち去った。

 なんだったの?
というか、気付けよって?

取り敢えず、今更すごい動悸がして、なんだかわからないけど、走って部屋まで行った。
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