クールアンドドライ
 8月になった。先月は、とうとう一件しか契約が取れなかった。
当然、ノルマは達成出来ていない。
達成すると、手当てがつくらしい。
 そして、達成出来ないと、見せしめが始まる。
 7月、達成出来なかったのは、私1人だけ。
わざとだった。
三課の営業さんは、優秀な人が多く、下手な小細工をしなくても、他の人は、ノルマを達成していた。

 早速、課長に呼び出された。
私は、メガネを掛けてから、課長のデスク前に立った。
 神妙な面持ちで、ある一言を待つ。
「やる気あんのか!」待ってましたとばかりに、言い返す。
「ありません!!」
予想以上に大きな声で言ってしまったからか、一瞬、周りが静かになった。

 「やる気がねーなら、辞めちまえ!」
いくらかトーンダウンした声で言われた。

「いえ、ここで辞めるのは癪なので、異動願いを出しました。」
淡々と、感情を込めず、神妙な面持ちのまま言ってやった。

「はぁ?ふざけてるのか?」
「至って、真面目です。」

 なかなか、言って欲しい言葉を言ってくれない。

 「うちの会社にやる気のねー奴はいらねーんだよ。」
「私は、あなたが課長だから、やる気が無いんです。」
「どういう意味だ?」少し、凄まれた。
やった!やっと言った。
期待通りの展開に笑いたくなるのを抑え、言ってやった。

 「そんな事自分で考えろ!それも含め課長の仕事でしょうが!」

 おっと、課長が引きつっている。
何か言われる前に、言った。
「でも、私は、優しいから、答えてあげます。部下を育てる気がないなら、課長なんて辞めたらどうですか?」
よし、言いたい事は言えた。

「この後、アポが入ってるんで、失礼します。」そそくさと、営業部のフロアを出て行く。
後ろから、誰かが笑う声がした。
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