クールアンドドライ
彼は、呑み始めた。
仕方ないので、私も呑む。
 目の前には、いつもよりちょっと豪華なデパートの惣菜たち。
メインはチキンの照り焼きだった。
お上品にちゃんと食べやすく一口サイズに切られている。
サラダもナッツとか振りかけられてて、なんだかお洒落。

 美味しい食べ物に、シャンパンも進んだ。
会社を出るまでは、落ち込んでたのが嘘みたいに、今はとても楽しい。

 「課長!!課長が神様にみえます!」
「おお、やっぱり今でも好きだったんだな!」

 私が感動したのは、目の前に置かれたケーキにある。
それは、真っ白な生クリームのショートケーキでもなく、ブッシュドノエルでもなく、ザッハトルテのチョコレートのケーキだった。
この、一見地味に見えるこのケーキこそ、小さい頃からの家の定番だった
その事を、大人になってから課長に話した事はない。
だから、彼は覚えててくれたんだろう。
『家はね、クリスマスのケーキは、チョコレートのケーキなんだよ。キラキラが乗ってて綺麗なんだよ!』
多分、子供の頃そんな話しをした気がする。
「課長は、覚えててくれたんですか?」
つい、気になって聞いてみた。
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