輝く星に手を伸ばして
この漫画であるやりとりを目の前にし、来たことを一瞬で後悔した。
早く帰りたい。
「岡田先輩ですか?流君の背中を押してくれて、ありがとうございました」
あたしに気付くやいなや、早瀬さんは頭を下げた。
「いえいえ」
これ以外に、あたしになにを言ってほしいのだろうか。
これが用事なら、もう帰ってもいいだろうか。
この前大川は早瀬さんのことを「美玲」と呼んでたし、今早瀬さんは大川のことを「流君」と呼んでた。それに、二人顔を合わせて笑ってる。
これを見て、諦めないほうがおかしい。
この二人の間に他人が入る隙間はない。
「岡田先輩は好きな人いないんですか?」
もう関わりたくないのに、早瀬さんはあたしに聞いてきた。
「いないよ」
この子は一つしか答えがない質問をするのが得意なのかな。
「できたら教えてくださいね!私、協力します!」
絶対この子には教えないし、協力してもらいたくない。
そんな冷たいことは言えず、あたしは軽くお礼を言って、帰った。
マンションに戻って、真っ先に向かったのは屋上。
そして屋上の端に立ち、もう点灯されたイルミネーションで見えにくくなった星に思いっきり手を伸ばした。
届きそうなのに、届かない。
あたしはそんな星を好きになってしまった。
どうしても届きたくて、あたしは一歩、踏み出した。