クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
踏み込んで、拒絶して
 もうすぐ大学の夏休みが終わり、後期の履修登録や、集中講義などでバタバタしていた九月下旬。珍しくゼミでお世話になっていた弘瀬先生から、研究室に呼び出されたので、私は首を傾げながら足早に向かった。

 普段、私は学生支援課で、おもに学生の大学生活のサポート業務を行っている。

 インターンシップや就職活動の窓口からはじまり、ゼミや講義の履修相談、出席率が悪かったり、大学にあまり姿を見せない学生にはアドバイザー教員と連携を取って話を聞く場を設けたり。

 アルバイト先のことや、個人的な事まであらゆる悩みを抱えた学生が訪れたりするので、請け負う業務は幅広い。

 もちろん学生の相手だけではなく、教員たちからの用事も数多あるので、仕事が楽だと思ったことは一度もない。けれど、嫌いではなかった。

 学生の頃はよく訪れた研究室だけれど、働き出してからはほとんどない。どちらかといえば足を運んでもらう側だし、簡単な用事なら研究室の内線の電話でやりとりするから。

 軽くノックすると、中から返事があり、私はドアを開けた。

「失礼します、片岡ですが」

 五十代半ばにしては、白髪が多い弘瀬先生がこちらを向いたのと同時に、来客用のソファに腰掛ていた彼が立ち上がって振り返った。その姿に息を呑む。

「久しぶり、片岡さん」

 十年ぶりに聞く幹弥の声は、記憶の中のまんまだ。でもどこか幼さがあった顔がすっかり大人なものになり、眼鏡をかけていて印象が随分違った。けれど、均整の取れた顔つきは相変わらずだ。
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