クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「おー桐生。なんだよ、デート?」

 一馬が声をかけたところで私は我に返った。極力、ふたりを見ないようにして、不自然にならないように一馬に視線を送る。

「ちょっとね。そっちは?」

 幹弥の軽い口調がうしろから聞こえる。なにも悪いことをしていないのに、心臓が静かに早鐘を打ち始めた。

「俺たちは、ちょっと忘年会。この前は楽しかったわ。また新年会でもしようぜ」

「機会があれば、是非」

「っと、彼女を待たせているのに、呼び止めて悪いな」

 そこで一馬が会話を打ち切ったので、幹弥たちは奥に足を進めた。去るときに彼女のつけた香水だろうか、甘い香りがする。

 おかげで私はつい目線を送ってしまった。目が合ったのは幹弥ではなく彼女で、可愛らしい顔でこちらに微笑んでくれた。

 ほら、私がいなくても、代わりはいくらでもいるんじゃない。

 ふと浮かんだ自分の歪んだ考えに嫌気が差しながら、静かに息を吐く。代わり、なんて逆に彼女に失礼か。あの女性の方が私よりもずっと幹弥にとって大事なんだろうな。

「いやー。やっぱりモテる男は連れてる女のレベルも高いな」

 しみじみと改まって告げる一馬は、ゼミ選抜についての話題を戻した。しばらくその話で盛り上がったところで、私は気になったことをなにげなく聞いてみる。

「そういえば一馬、みっ、桐生くんと一緒に飲んだの?」

「ああ、ついこの間。弘瀬先生もいたんだけど、二次会はふたりでちょっと飲みに行ってさ」

「へー」

 少しだけ意外だった。幹弥はあまり一馬とタイプが合わなさそうだと思っていたから。でも、お互いに大人だし、それは私の勝手な思い込みだったのかも。

 私は、幹弥のことを本当になにも知らない。自覚して、また軋む胸を押さえる。
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