クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 でも、家に帰ったときにナイトはいないんだって、じわりじわりと痛みにも似た実感に、どうしようもなくなったとき、幹弥に出会った。

『“彼”が待っているわけだ』

 初めて彼のマンションに足を運んだ日、さっさと帰ろうとする私に幹弥はそう告げた。あのとき否定していれば、本当のことを話していれば……。

 私は感情なく口元に笑みをたたえた。

「言ってたらどうなった? もっと優しくしてくれた?」

 自分でも驚くほど、冷めた声だった。わずかに幹弥が動揺の色を見せたのが伝わってくる。私は息を軽く吐いて続けた。

「一馬の言った通り、私は平気だよ。寿命だったの。仕方ないよ。ただ、金曜日に部屋に帰ると色々思い出しそうで。そんなとき、ちょうど幹弥が声をかけてくれたから」

 口にしたことで溢れそうになる想いを必死で堪えて、きつく唇を噛みしめる。幹弥はなにも言わない。

 知られたくなかった。もし事情を知っていたら彼は、もっと違う慰め方をしてくれたのかもしれない。ほかの女性たちと同じように優しくしてくれたのかもしれない。

 でも、嫌だった。そんなものは望んでいなかった。

「優しくして、気を紛らわせてくれるなら誰でもよかった。……幹弥に言わなかったのは、わりきった関係に、下手に罪悪感とか後ろめたさを感じられたくなかったら。そんなに重く考えなくてもいいよ。それで、いい加減吹っ切ったから、この関係も終わらそうと思ったの。私は……幹弥を利用したんだよ」

 自分でもひどい言い草だと思う。これで彼は私を軽蔑するだろうか。ないがしろにされたって怒るだろうか。でも、どれでもいい。私たちが終わりなのは間違いない。この胸の痛みとも、もうお別れだ。
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